思い出と秘密

刀剣乱舞の二次創作置き場。

戻ってこない小狐丸の消息を、審神者は必死になり探していた。

皆に見送られて出かけていった小狐丸は、数日が経過しても戻ってこなかった。
事情が事情だけに、まあのんびりしてきてくれれば…などと和やかに考えていた本丸の面々だったが、予定よりも早くメンテナンスより戻ってきたこんのすけが齎した情報により、恐慌状態に陥ることとなった。

審神者が書き取った位置情報に本丸は存在しないこと。
そもそも、そのような情報を持ち帰った履歴はないこと。
先日、本丸に到着してから後の記録がこんのすけにないこと。
小狐丸の所属していた本丸は以前たしかに存在したが、敵襲の影響で時空を漂流状態であり、また所属していた者はすべて亡くなっていること──

「どういうことなんですか?!」
怒ったところなど見たこともない穏やかな審神者の激昂する姿に、その場にいた刀剣たちは真っ青になった。
小狐丸が消えた場所へのアクセスを試みるも、一向に繋がらない。
審神者は止める声を振り切り、連日に渡って徹夜で手がかりを求め続け、ある日とうとう倒れてしまった。
こんのすけは方々から責められ続け憔悴しきっている。
小狐丸の行方は、依然として知れない。


目を開いた審神者は、寝かされている布団の周りを刀剣たちが取り囲んでいるのに気づき、驚いて身を起こそうとして一斉に止められた。
目を覚ましたことで気が緩んだものか、短刀たちがべそをかき始める。
その頭を順番に撫でてやりながら、小狐丸の姿を探して審神者は肩を落とした。

「主、あのね…」
つられてしまったのか、半泣きになりながら乱が口を開く。
「おまじない、聞いたの…迷ってしまった者が帰ってくる、おまじない。一緒にやろ?」
口々にやりましょうと声が上がる。
もうこうなったら神頼みだ、いやいなくなってしまったのは神なのだが、その場合は効果があるのか、等と考えつつ、審神者は苦笑して頷く。

そして、一同が神妙な顔を見合わせ、こんのすけの合図で声を揃えておまじないを唱えた。

たち別れ因幡の山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む

どたどたどたっと派手な足音が響き、「ぬしさまっ!」と探し人ならぬ狐が部屋に駆け込んできたのは、唱えた数十秒後だった。
「すごい、本当に帰ってきた!『迷い猫を探すおまじない』で!」
と乱が小さく上げた感嘆の声は、その後の騒ぎに掻き消されて誰の耳にも届かなかった。


******


「守り袋?」
「はい、ぬしさまからいただいたこれが、私を導いてくれました」
小狐丸は嬉しそうに笑ってそう言った。
守り袋といえば、と審神者は小狐丸の太刀を見やる。しかし、そこにいつもあった守り袋はなかった。
「小狐丸さん、そこにつけていたものは?」
審神者が問えば、小狐丸は静かに笑み、
「…もう、良いのです」
と答える。
「あちらに置いて参りました。すべて」
そう言い穏やかに笑うその顔がつらく、審神者はうつむきながら小さな声で更に問う。
「…その、奥さんとお子さんは…」
「息災でございました」
即答だった。思わず審神者は顔を上げて小狐丸を見やる。

「もう息子も大きゅうなっておりまして、長く留守にしておった父などおらぬとも平気そうでございました。妻もこちらへ戻れとしつこく言いますので、これからも変わりなくぬしさまのお傍で…ぬしさま?」
審神者は懸命に堪えたが、どうしても涙を堰き止めることができなかった。
慌てた小狐丸があれこれと慰めるも、わんわんと泣き続けて彼をえらく困らせたのであった。


******

「三日月さんは、もしかして知っていたの?」
「ああ、本人は知らぬようだが、太刀に守り袋を付けた錬度の高い小狐丸の噂は演練などで耳にしておったからな。その本丸の顛末も、な…人の噂は時に鋭く真実をつくものだ」
「じゃあ、どうして行かせたんですか?もし言ってくれていたら、こんなことには…」
「行くべきだと思ったから、といったら主は怒るやもしれんな。だが、きっと小狐丸は悔いてはおらぬと思うぞ」
「そうでしょうか…」
「ああ、きっとな」


小狐丸は今の主が大好きである。
大切なものは失くしたが、そしてそれはとても悲しいことだが、新たにできた大切な存在を想えば、それも薄れる気がされる。
別れはつらく悲しい。
しかし、長い道のりの中、いつかまた会えるときもあろう。
こうして前を向き歩んでいれば、いつか。
もし、もしまた大切なものがこの手から零れ落ちたとしても、もらったあたたかさはなくならない。もらった思い出はなくならない。
小狐丸が忘れない限り。

小狐丸の首には、今日も守り袋がかかっている。
時折、かつて揺れていた小さな小さな守り袋を思い出し切なくなる。
かけがえなき思い出は変わらずに胸にあり、そこへ新しい思い出が積み重なっていく。
過去も今も、すべて小狐丸の心にある。
愛しいものに別れは告げない。ただ、今は先に進まねばならない。
いつか、いつかすべてが終わる日が来たら、そのときはきっと迎えに行こう。今の愛しい者を見送ったのちに。

それまで、しばしの別れじゃ。

小狐丸は夜空を見上げる。
ひとつ、星が流れた。
三たび口にできずとも、もう小狐丸は叶うと知っている。
目を閉じれば、愛しいぬくもりが蘇る。

小狐丸はもうひとりではない。
それはとても、しあわせなことだった。

 
fin